見落とされる「部活いじめ」ー発生場所調査の欠落が背景に

いじめの認知件数は過去最多を更新し、スポーツ強豪校でのハラスメント報道も相次いでいます。学校生活の中で大きな位置を占める部活動ですが、その場でいじめがどれほど起きているのか、十分な調査は行われていません。「表現の現場調査団」の分析が示したのは、その部活動での想像以上に高いいじめ経験率でした。
荻上チキ(社会調査支援機構チキラボ) 2025.11.21
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実施されてこなかった「いじめの発生場所調査」

2013年9月に「いじめ防止対策推進法」が施行されて以降、日本では毎年、文部科学省が全国調査(「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)を公表しています。最新の令和6年度調査(2025年10月発表)では、いじめの認知件数は76万9,022件と過去最多を更新しています。

しかし、文科省の全国調査が把握しているのは主に「認知件数」「解消状況」「重大事態の件数」などであり、いじめがどこで起きたのか(教室、通学路、トイレ、部活動など)という“発生場所別”の全国横断的な内訳は調査できていません。

国立教育政策研究所もいじめの追跡調査を長年実施していますが、やはり発生場所については把握できていません。

アメリカの司法省による「全米犯罪被害調査(the National Crime Victimization Survey)」では学校での犯罪として、いじめ(bullying)を調査しています。その調査では、「教室」「廊下」「トイレや更衣室」「食堂」「校庭」「通学路」など複数の場面をあらかじめ列挙し、調査対象者に回答させる形で「場所別発生率」を出しています。

以下は2022年の調査結果です。アメリカでのいじめホットスポットが、「教室」「廊下や階段」「食堂」などであることがわかります。

日本ではこのような調査がなされていないのです。もちろん、個別の自治体や、個々の研究者による発生場所の調査はあります。また、オンラインでのいじめについては、国も目配りしています。しかし、物理的空間における発生場所の全国横断的な調査はなされていません。

森田洋司他(1999)の『日本のいじめ』では、いじめの発生場所の上位に教室(74.3%)、廊下や階段(29.7%)、それについで「クラブ活動の場所」(16.2%)と続いています。しかし、このデータもだいぶ古いものになっています。

四人に一人が、中学生での部活いじめを経験

では、部活動という場所に着目してみた場合、近年はどのくらいいじめが発生しているのでしょうか。2023年10月に実施した、「表現の現場」で働く人々の調査データをここでは参考として示します。調査の詳細は、文末に記載しています。

調査にご協力いただいた、当時20代の方の回答を見ると、中学校時代、高校時代の部活動において、調査した以下の項目いずれでも、経験したことがある状況となっていました。

「先輩や同輩など部員から、要領を得ない助言や指導を続けられた」
「先輩や同輩など部員から、罵倒や暴力を受けた」
「先輩や同輩など部員から、性的嫌がらせや性的暴行を受けた」
「先輩や同輩など部員から、シカトや無視、からかいを受けた」

特に高い経験率は、「要領を得ない助言や指導」で、中学校では「頻繁にあった」「たまにあった」合わせて32.3%、高校では26.1%となっています。次いで多いのは「シカトや無視、からかいを受けた」で中学校では27.1%、高校では23.8%となっています。罵倒や暴力も無視できない数値となっています。

部活動には、先輩後輩による上下関係が存在し、さらに集団競技や集団での活動がメインとなる場合にはメンバー間のまとまりも強く求められることになります。いじめが発生しやすい条件を、教室以上に兼ね備えているとも言えるのが、部活動という場です。

教室がつらい子どもにとっては部活動は「逃げ場」となる場合も。学校の中にいくつもの安全な場を確保することが、子どもたちの心理的安全に不可欠です。これからのいじめ研究では、発生場所調査、部活動のいじめ調査の徹底が必要です。

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【調査概要ーー表現の現場ハラスメント調査】

  • 調査主体:表現の現場調査団とチキラボによる共同調査

  • 実施時期:2023年10月に実施

  • 対象:「表現の現場」で現在活動している方々

  • ここで「表現の現場」としたのは、「美術」、「演劇・パフォーマンス・ダンス」「映像・動画・映画」「デザイン」「音楽」「文芸・ジャーナリズム」「写真」「アニメーション」「ゲーム」「マンガ・イラスト」「建築」「服飾」「お笑い」「工芸・伝統芸能・伝統文化」のいずれかの分野。

  • 本記事で使用したのは、2023年10月の調査当時、表現活動を行なっており、表現活動での収入もある方を対象とした349ケース。

  • 対象者の中学校・高校時代の部活動、そして18歳までの習い事の経験の中で指導者および部員から、どのような理不尽行為をどのくらい経験したのかを調査。

調査の詳細はこちら
https://www.hyogen-genba.com/

調査結果を見ていただく際には、以下の点に注意が必要です。

  • 表現の現場で活動する方々の何らかの傾向性を反映している可能性があります。そのため、一般の傾向として数値を見ることはできません。

  • 主観的な経験頻度を回答してもらっています。そのため、正確な発生頻度を示すものではありません。

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