新聞読者グループごとの投票行動と意識ー参議院選挙2025を「科学」する(8)

2024年以降、選挙期間中の発信は「YouTube」や「切り抜き動画」を通じて行うことがスタンダードになりました。その一方で、誤情報が拡散されるケースも見られます。こうした中で、新聞社が果たす役割はますます重要になっています。この記事では、新聞購読者の支持政党傾向を分析しました。
荻上チキ(社会調査支援機構チキラボ) 2025.10.31
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どの新聞を読むかで意見の棲み分けが起こっている

2025年7月20日に投開票が行われた参議院選挙。チキラボではこの選挙期間中、日本社会で暮らす人々の政治に関わる意識を明らかにするため、継続調査を実施しました。

この記事では、普段読んでいる新聞の読者別に政治意識の傾向を探ります。

まずは、比例区投票先政党別に、普段どの新聞をどのくらいの人が読んでいるのか、基本的な分布を確認しましょう。全体として、全国紙を日常的に読んでいる人の割合(以下、「利用率」と表記します)は決して高くありません。

以下の前提を踏まえたうえで、政党ごとの違いを見ていきます。

  • 支持政党にかかわらず、利用率は全体的に低い

  • 政党の機関誌を購読していることが、利用率に影響している可能性もある

読売新聞:どの政党支持者でもおおむね同じ水準。自民と参政党の「よく見る」の比率がやや多い傾向も

朝日新聞:立憲民主党投票者の利用割合が高く見えるが、統計的な有意差はなし

毎日新聞:全体的に利用率そのものが、他紙より低い結果に。特に、日本保守党支持者の利用率が低く見えるが、統計的な有意差はなし。

日経新聞:支持政党別に大きな差はみられないが、公明、共産、れいわ、日本保守党支持者の利用率は低い

産経新聞:利用率は高くない中、支持者層によって利用率には差が。「よく見る」「たまに見る」の合計で見ると、国民民主党で一番高い割合で、次に参政党、自民党が続く。

地元紙・ブロック紙:総計での利用率はかなり高い一方、維新支持者の利用率の低さが目立つ

朝日はリベラル・ジェンダー平等に好感、産経は保守・日本人ファーストに好感と外国人脅威意識が強い傾向

では、それぞれの新聞の読者は、どのような政治意識・社会意識を持つ傾向があるのでしょうか。自身の政治的立ち位置、「日本人ファースト」への好感度、「ジェンダー平等」への好感度、外国人脅威意識の傾向をみてみましょう。

以下のグラフの値は、各意識に対する、各新聞の読者か否か、という要因が与える影響力の相対的な強さを示しています。

「日本人ファースト」意識と外国人脅威認識の傾向―産経読者で顕著な高さ

「日本人ファースト」への意識:産経で好感度が高く、朝日・毎日で低い

「日本人ファースト」というワードに対しては、朝日読者グループと毎日読者グループほど反感を持ちやすくなる傾向があります。逆に、産経読者ほど好感度が高くなる傾向がありました。

「外国人脅威得点」:産経で脅威認識が高く、朝日・地元紙で低い

外国人に対する脅威を抱き、反発をする傾向についても分析しています。朝日読者グループ・地元紙グループほど脅威認識は低くなる傾向がありますが、産経読者グループでは高くなる傾向にありました。購読新聞ごとに、「外国人観」の棲み分けが起きている模様がみて取れます。

新聞購読者層による政治意識の分化―リベラル/保守の自己認識とジェンダー観の差異

「自身の政治的立ち位置」への意識:朝日でリベラル自認、産経で保守自認の傾向

自分自身の政治的立ち位置を「リベラル」と自認する傾向は、朝日読者グループほど強くなる傾向があり、「保守」と自認する傾向は、産経読者グループほど強くなる傾向がありました。

「ジェンダー平等」への意識:朝日・毎日で好感度が高く、産経で低い

「ジェンダー平等」というワードへの好感度は「日本人ファースト」とは真逆の結果となりました。朝日読者グループ、毎日読者グループほど好感度が高くなり、産経読者グループほど好感度が低くなる傾向が見られ、購読紙の影響力は産経読者でより強い様子もうかがえました。

地域紙が人権意識を支える存在に

地元紙・ブロック紙の読者グループはどうでしょう。このグループは、リベラルと自認する傾向が強く、ジェンダー平等を尊重し、外国人脅威が低い傾向がありました。地域に密着したメディアが、人権擁護の要になっている側面も伺えます。

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