第1回「社会抑うつ度調査」報告

日本社会の、「人生満足度」「社会抑うつ度」などを、定期的に観測し続ける「社会抑うつ度調査」。第一回調査から、コロナとメンタルの関係、コロナ対策の実相も見えてきました。
荻上チキ(社会調査支援機構チキラボ) 2021.07.19
誰でも

Ⅰ.はじめに

2021年6月より、チキラボで新たな調査をはじめました。日本国内で生活する人々の、「人生満足度」「社会抑うつ度」などを、定期的に観測し続けるという内容です。

この調査では、災害や景気、政治イベントやメディアイベントなどによって、人々の心理状態がどのように推移するのかを追いかけます。そのデータをもとに、自殺対策やメンタルケアをはじめとした、さまざまな対策・提言へと繋げていきます。

この調査の参考となっているのは、早稲田大学の上田路子准教授らが行った先行研究です。この調査は、2020年4月から2021年2月にかけて、一般市民1000人を対象に毎月実施していたものでした。コロナ禍での人々のストレス状況の推移などを捕捉するものでしたが、調査期間が短期で終わってしまうのはもったいないという思いから、上田准教授の許可のもと、チキラボで引き継ぐことになりました。

「人生満足度」「不安感」「社会抑うつ度」「孤独感」の計測は、それぞれ既存の心理調査で用いられる尺度を用いています。加えて、所得や地域などの基本属性の他、メディア信頼度やBig5など、複数の指標との関連性を分析していきます。また、コロナ禍においては、コロナ対策の取り組み具合との関係などについても尋ねています。

調査手法は、モニターを対象にしたウェブ調査ですが、少しでも精度を上げるため、サティスファイス項目(文章を読んで回答しているかを尋ねる疑似質問)を複数設けました。株式会社ネオマーケティング様には、今後も継続的に、調査強力をしていただくことになっています。

Ⅱ. 精神的健康

初回調査なので、先月比や昨年比などのデータはありません。ただ、参考までに、上田准教授の調査データと組み合わせた上でプロットを行うと、「抑うつ度」「不安障害」「孤独感」の割合も、若い層の女性の方が拡大していることが懸念されます。

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 精神的健康と基本属性との間には、どのような関係があるのでしょうか。分析を行なったところ、以下のようなことが確認されました。もちろん、これから紹介する結果はあくまで全体の傾向であって、特定の属性の人が、必ず類型的な精神的健康状態にあることを示すものではありません。

・「年齢が若い人」「昨年と比べた経済状態が悪い人」「結婚していない人」ほど「精神的健康状態」が悪い

・「非正規従業の人」「学歴が低い人(中卒・高卒)」「世帯収入が低い人」ほど「人生満足感」が低い

・「一人暮らしの人」の方が、「不安感」が低い

・「仕事をしていない人」の方が、「孤独感」が高い

今後の調査では、時期やイベントごとに、どのような人にどれだけの変化があったのかを見ていきたいと思います。

Ⅲ. コロナ禍における活動

今回は初回調査であるため、例えばコロナ禍が、「誰に」「どのような」影響を与えたのかを、時系列で追うことはできません。他方でコロナ関係の質問と分析することで、いくつか見えてくることもあります。

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外食やカラオケなど、リスキーな行動であると繰り返しアナウンスされた行動について、この一ヶ月の状況を尋ねると、大半の人が、外食を控え、旅行やカラオケなどを控えていました。一方で、公共交通機関の利用については、控えるにも限度があることも見えます。

コロナ禍の行動パターンが類似している人たちをクラスター分類してみると、大きく4つのグループに分けられました。

最も多いのが、全体的な活動を控えた「自粛群」。次に、公共交通機関の利用だけれは控えられなかった「交通群」。その次が、家族と少人数で食事などはした「家族群」。最後に、積極的に出かけている「活動群」です。それぞれの傾向を分析すると、次のようなものでした。

【交通群(237人)】… 平均年齢が低い(46.3)、20代が多く70代が少ない/ 世帯収入が高い、大学・大学院卒が多い/ 結婚していない人、1人暮らし、子供と同居していない人が多い/ 無職が少なく、職のある人(正規・非正規含む)が多い/人生満足感が低い

【活動群(17人)】…平均年齢が低い(35.9)、20代が多い/無職が少なく、非正規雇用の人が多い/不安感・抑うつ感が高い

【自粛群(616人)】…平均年齢が高い(51.6)、20代が少なく70代が多い/世帯収入が低い、中卒・高卒が多い/無職が多く、正規雇用が少ない/生活満足感が低い

【家族群(130人)】…平均年齢が高い(51.0)/結婚している人が多い、1人暮らしが少ない/非正規雇用が少ない/生活満足感が高い

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家族群は、ステイホームしつつ、たまの外食も行っています。この群は、人生満足度が高くなりがちでした。他方で交通群や自粛群は、人生満足度が低くなりがちでした。

活動群は、非正規雇用の若い人が多く、不安感や抑うつ感が強く現れました。テレビなどでは、「ルールを守らないけしからん若者」として描かれることが多い印象です。しかし、ストレス下でどのような適応を行うかは人それぞれです。活発に活動する人は、「自粛によるストレスをより強く感じやすい人」あるいは「日常の中で多く抱えているストレスを在宅では発散し難い層」である、という側面が見えるとすれば、在宅リソースの提供やコミュニケーション機会の提供など、新たな政策ターゲットが見えてくるかもしれません。

参考までに、クラスターを5つに分類した場合、友人とだけは出かけたという「友人群」が現れました。

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ここでは、若くて未婚、一人暮らしで安定雇用であるという層が見えてきます。この群と「家族群」を比較すると、そもそも在宅リソースが豊富で、家族が家にいるならば、生活への充実度も上がるでしょうが、一人暮らしの若者であれば、ステイホームにも限度があるということも見えてきます。「なぜ自粛を守れないのか」という問いは、「自粛が可能となる生活条件は何か」という観点から捉える必要もありそうです。

Ⅳ. コロナ禍におけるリスク対策

コロナ禍において、人々はどのように対策を行なっているのでしょうか。この一ヶ月に行なった対応を尋ねると、多くの人がマスクをし、こまめに換気をし、外出を控え、通勤時間などをずらし、リモートなどに切り替えるなどの対応を行なっています。

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他方で、他の対策などと比べると、「接触確認アプリの使用」の割合が低いのが目立ちます。効果が定かではない「空間除菌や光触媒装置の導入」「イソジンなどのうがい薬でうがいをした」よりも少ないという結果でした(なお、回答者には、回答項目にはコロナ対策として不確かなものも含まれている旨のフォローを行なっております)。

それぞれの対策と、基本属性情報との関係を分析すると、次のような関係になっていました。

・全般的に、女性・高齢の人・高収入の人がリスク対策行動をしやすい

・仕事をリモートで行ったのは正規就労・高学歴・高収入の人

・電車やバスで混雑する時間を避け(られ)なかったのは、就労している人、1人暮らしの人

・毎日体温を測っていたのは非正規就労の人

・接触確認アプリを利用したのは正規就労・高収入・結婚している人

・マスク会食をしたのは女性、していないのは正規就労の人

・空間除菌や光触媒などの装置を設置したのは女性・一人暮らしの人

これらの要因は、「誰がコロナ対策に熱心か」という観点だけでなく、「誰がどのコロナ対策が可能/身近なのか」「誰がどのコロナ対策を必要としているか/要求されているか」という観点からの分析も必要でしょう。

例えば、「就労している人」は通勤時間を変えることがなかなかできず、他方、「正規就労で高収入の人」は、リモートワークに切り替えることが可能でした。「非正規就労の人」が体温を熱心に測るのは、職場から義務付けられがちなのかもしれませんし、失職リスクを避けるための自衛なのかもしれません。それぞれの対策の背景に、どのような「選びやすさ・選ばざるをえなさ」があるのか、より踏み込んだ質的調査が求められそうです。

また、Ⅲで分類した4つのクラスターと、リスク対策をみてみました。すると、「活動群」は、体温測定や接触アプリの使用など、さまざまな項目で他のクラスターよりも積極的に対策を行なっていました。「活動群」は他人から見ると、コロナ対策に非協力的な人々に見えるかもしれませんが、通常通りマスクをし、人並み以上に対策をとったうえで出かける、という姿も見えてきます。

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Ⅳ. メディアへの信頼

最後に、コロナ対策とメディアとの関係について、少しだけ。コロナ情報に限らない、メディア全般に対する信頼度は次の図の通りです。

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特に公的情報への信用が高いのは、「女性」「非正規従業」「昨年と比べた経済状態が良い人」「世帯収入が高い人」でした。また、ネット情報への信用が高いのは、「年齢が若い人」「世帯収入が高い人」「一人暮らしの人」でした。

また、先ほど分類した「活発群」は、他のクラスターよりも、ネットメディアへの信頼度が高いこともわかりました。それぞれのクラスターごとに、どのようなメディアで説得コミュニケーションを行うのかもまた、根拠立てた議論が必要となるでしょう。

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終わりに

この調査は、「社会抑うつ度」などを継続的に取りつつ、その時期ごとの重要項目を調査していければと思います。コロナ禍が続く限りは、コロナ対策の項目を入れつつ、災害時などにおいては、また新たにその影響を分析し、公開していければと思います。

最後に、この調査をチキラボで持続するため、現在クラウドファンディングを行なっています。行政の対策を吟味したり、日常の健康面を可視化していくため、有意義な調査にしていきたいと思います。もしこの記事を読んで少しでも興味を持たれたら、ぜひ、応援の程、よろしくお願いします。

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