信じているのは「陰謀論」ではない〜参政党への投票行動を分析する④

2025年の参院選で躍進した参政党。その背景には、いくつかの陰謀論が支持拡大の文脈で用いられてきた側面があります。今回の分析では、代表的な陰謀論への支持度を、参政党に投票した層とそれ以外の層で比較しました。さらに、参政党の考え方・政策・発言内容をどの程度「陰謀論的」と受け止めているかについても尋ね、その特徴を明らかにしています。
荻上チキ(社会調査支援機構チキラボ) 2025.12.09
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2025年7月に行われた参議院選挙では、参政党が議席数を伸ばしました。その「躍進」のさなか、長らく参政党の動向を追い続けてきたジャーナリストやウォッチャーからは、陰謀論との親和性に対する懸念が示されていました。

チキラボでは、東京都議選の直後から参院選終了後まで、2025年都議選・参院選をめぐる有権者の政治意識調査を実施。この記事では、参政党支持者の陰謀論への親和性を分析していきます。

参政党支持者はどのくらい陰謀論を信じる?

参院選で参政党を支持した人たちは、外国人に対して脅威や不安感を強く持っていることを、チキラボの調査でも明らかにしました。一方で参政党は、いくつかの陰謀論に基づいて支持者を集めてきた政党でもあります。例えば参政党党首の神谷氏からは、「多国籍企業がパンデミックを引き起こした」という趣旨の発言が行われてきました。

では、都議選から参院選までの間に参政党を支持してきた人々は、どの程度陰謀論を信じているのでしょうか。

長迫智子・小谷賢・大澤淳『SNS時代の戦略兵器 陰謀論――民主主義をむしばむ認知戦の脅威』に収録された長迫氏による「はじめに」では、「陰謀」は次のように定義されています。

  • 権力を持つ個人からなる少人数の集団が、

  • 自分たちの利益のために、公共の利益に反して秘密裏に行動するもの

さらに、次のようにも述べられています。

  • 認識論的権威からの認定がないにもかかわらず、

  • または陰謀を否定するデータが存在するにもかかわらず、

  • それを「陰謀」と決めつけて非難する言論

→ これを 「陰謀論」 と呼ぶ。

ここでいう 「認識論的権威」 とは、例えば以下のような専門家を指します。

  • 学者

  • 裁判所

  • 議会

参院選直後の追加調査で、陰謀論項目を設け、その支持度合いを「絶対正しい」「かなり正しい」「すこし正しい」「どちらともいえない」「すこし間違っている」「かなり間違っている」「絶対間違っている」の7段階から選んでもらいました。

以下の項目はいずれも、適切なデータや科学的裏付けがない、もしくは否定するデータがあるものです。こうした陰謀をどの程度の人が信じているのでしょうか。

  • 男女平等や同性婚を求める動きは、家族を崩壊させようとする文化共産主義者の企てだ

  • 選挙の期日前投票では、票の書き換えなどが行われるなど、不正が行われやすい

  • 安倍晋三殺害の真犯人は、まだ捕まっていない

  • 多国籍企業がパンデミックを引き起こした

  • 前回のアメリカ大統領選挙では、トランプを妨害するための不正選挙があった

  • このあいだの韓国大統領選では、不正投票により政権交代した

  • 日本のメディアは、悪意ある大きな勢力によって支配されている

  • 政府や財務省などは、悪意ある大きな勢力によって支配されている

 調査は、東京都有権者全体からサンプリングしたグループ(n=410)と都議選で参政党に投票したグループ(n=278)それぞれに対し実施しています。それぞれのグループの回答をみてみましょう。

結果をわかりやすく把握するために、7段階の評価を100点満点の配点にふり直し、各項目の平均得点を確認しました。「絶対正しい」を100点、「どちらともいえない」50点、「絶対間違っている」0点となるようにしています。また、「答えたくない」は分析から除きました。

全般的に、有権者全体と比べ、参政党に投票したグループの方が個別の陰謀論を強く信じている様子がわかります。

調査ではさらに、都議選で参政党に投票した人のうち、「参院選でも参政党に投票したグループ」と「参院選では参政党に投票しなかったグループ」に分けて分析。その結果、「参院選でも参政党に投票したグループ」のほうが、投票しなかった人と比べて強く陰謀論を信じていることも確認できます。

東京都全体の有権者と比較して陰謀論を信じる度合いが高かった参政党支持者。さらに、参院選でも参政党を支持し続けた人は、とりわけその傾向が顕著であることがわかりました。

ウクライナ支援や外国資本への警戒感は?

ロシアによる侵攻開始当初と比べ意見が別れるようになったウクライナ支援の正当性、そして近年警戒感が高まっている外国資本による日本の土地購入の問題に対する立場についても調査しています。同じく「絶対間違っている」から「絶対正しい」までの7段階で評価してもらったところ、参院選でも参政党に投票し続けたグループが、いずれの項目でも信じる度合いが最も高いことがわかります。これら2つの項目は部分的に正しい面もありますが、往々にして間違った情報に基づくことがあるにもかかわらず、参政党支持者の極端な姿勢が見えてきます。

参政党を「陰謀論的政党」とは思わない参政党支持者

陰謀論を信じやすく、賛否両論・不確かな情報も含むウクライナ支援や外国資本による土地購入問題も極端な態度を示しやすいのが参政党支持者です。また、そうした情報の出所ともなっている参政党ですが、参政党を「陰謀論的政党」と認識する人の割合は、参政党支持者ほど低いです。

調査では、「あなたは今現在、参政党についてどのように思いますか。」という形で、ポジティブ、ネガティブなさまざまなイメージを質問しました。その中での「考え方や政策、発言内容が陰謀論的だ」に対する認識についての設問で、都議選参政党投票グループでは「とてもそう思う」4.0%、「まあそう思う」20.5%。東京都全体グループの「とてもそう思う」12.7%、「まあそう思う」28.0%の数値と比較すると、参政党支持者は参政党そのものは「陰謀論的政党」とは思わない傾向がありました。陰謀論を「陰謀論」と思わずに信じ、そして参政党を支持する様子が浮かび上がっています。

今年6月の都議選の結果を受け、チキラボでは参政党の支持者の実態に迫る緊急調査を実施してきました。その分析結果は、以下の3つのブログ記事にて公開中です。ぜひご覧ください。

【引用文献】

長迫智子2025「はじめに」, 長迫智子・小谷賢・大澤淳『SNS時代の戦略兵器 陰謀論ーー民主主義をむしばむ認知戦の脅威』株式会社ウェッジ, pp.3-12.

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