社会的マイノリティの精神的健康状態についてーー第6・7回「社会抑うつ度調査」報告
一般社団法人・社会調査支援機構チキラボでは、株式会社ネオマーケティングと協働し、日本社会で生活する人の「精神的健康度」を計測し続けています。
具体的には、「抑うつ度」「不安感」「孤独感」「人生満足度」の計測と、時局ごとの意識調査となります。
本記事では、2022年下半期の調査結果を紹介します。
「惨事報道ストレス」について(2022年8月段階)
まず全体としては、これまで同様、男女ともに、若年層(18-39歳)で抑うつの高い人が多く、高齢層(60-79歳)で少ないという傾向がありました。
8月調査の時点までには、ウクライナ戦争の継続、安倍元首相の暗殺などのショッキングな事件がありましたが、全体的には、精神的健康の悪化は見られませんでした。6月の調査段階では、高齢女性などに悪化がみられましたが、今回はそのような悪化はみられませんでした。
但し、今回の調査でも、「ニュース視聴量が多い若い人」ほど、不安感が高い人が多い傾向がありました。また、細かく見ると、日本の事件やウクライナ戦争に関する報道に触れている人ほど、不安感が高いという結果になっていました。
ニュースへの接触率は、媒体によって異なります。特に、テレビ、国内ニュースサイト、知人との会話、動画メディアなどで、ニュースに触れる人が多くいました
今回の調査では、日本のテレビ、雑誌・書籍、新聞、ラジオ<radikoやradioクラウドを含む>、podcastやSpotifyなど、音声配信メディア、YouTubeやYikTokなどの動画メディア、TwitterなどのSNS、家族や友人、同僚などとの会話<LINEやメールなど含む>、国内のニュースサイト、海外のメディアの視聴量を合計し、「ニュース視聴量」の変数としています。他方で、接触メディアごとにも、抑うつ感や不安感の傾向は異なることがわかりました。
「不公平感」について【2022年11月時点】
2021年9月以降の調査では、「個人的不公平感」「社会的不公平感」も調査しています。
個人的不公平感とは、「自分自身が公平な扱いを受けていない」という認知です。具体的には、「自分自身が公平な扱いを受けていないと感じる」「自分と同じ世代・性別の人々は公平な扱いを受けていないと感じる」度合いのことを指します。
社会的不公平感とは、「社会が公平な場ではない」という認知です。具体的には、「日本社会は公平な場ではないと感じる」「世界は公平な場ではないと感じる」度合いのことを指します。
8月→11月の変化では、全体的には、男性の方が女性より個人的不公平感が強く、若年・中年層は高齢層より個人的不公平感が高い結果となっていました。また、若年男性の抑うつ度、不公平感が増大していました。
コロナ関連調査
「コロナ関連」の項目についても、引き続き調査を行なっています。今回のポイントは、今の通りです。
・回答者のうち、11月時点でコロナ罹患経験があると回答したのは、9.7%であった。
・高齢者の罹患率は、その他の年代と比べても低く表れた(高齢者層3.3%、それ以外は13%程度)。
・概ね、ワクチン接種率が高い人ほど、罹患率が低かった。
・罹患経験のある人ほど、調査時点での精神的健康が悪かった
社会的マイノリティの精神的健康度
今回は、いくつかの「社会的マイノリティ性の自認」や「生活上の困難になる可能性のある特性」について尋ねる項目を設けました。その結果は、以下の通りでした。
・「宗教2世」という言葉が自分に当てはまると考える回答者は1.1%であった。
・「性的マイノリティ」という言葉が自分に当てはまると考える回答者は1.4%であった。
・「精神的障がい」があるという回答者は、6.4%であった。
・「持病がある」回答者の割合は、16.6%であった。
・「高齢の家族・親族の介護中である」が3.0%、「障がいや持病のある家族・親族の看護中である」が1.6%であった。
年齢層別に見ると、これらの人たちには次のような特徴がありました。
・性的マイノリティ、精神的な障がいを持つ人、失業中、と自認するの人の割合は若年層で高かった。
・身体的な障がい、持病を持つ人、高齢の家族・親族の介護中の人の割合は高齢層で高かった。
・介護や看護をしている若年層、いわゆる「ヤングケアラー」は1.4%となった
こうした当事者たちの精神的健康度や社会的特性などはどうだったのか。概ね、次のような結果が出ました。
・「宗教2世」回答者とその他の回答者との間に、調査した項目(精神的健康度や学歴など)においては、統計的な差は見出せなかった。
・「性的マイノリティ」回答者は、そうでない人に比べ、抑うつ・不安感が高く、人生満足感が低く、個人的不公平感が高かった。また、現在結婚している人が少なく、世帯収入が低く、主観的社会経済的地位が低く、主観的健康が悪かった。
・「精神的な障がいのある人」は、そうでない人に比べて、精神的健康が全般的に悪く、不公平感が高かった。また、現在働いている人、フルタイム就労をしている人、 結婚している人が少なく、1年前より暮らし向きが悪化した人が多く、主観的社会経済的地位と主観的健康 が低かった。
・「障がいや持病のある家族・親族の介護中の人」は、そうでない人に比べて、抑うつ・不安感の高い人が多く、 孤独感が高く、人生満足度が低く、不公平感が高かった。また、最終学歴が大学・大学院の人が少なく、1年前より暮らし向きが悪化した人が多かった。また、世帯収入、主観的社会経済的地位が低く、主観的健康が悪かった。
・「持病がある人」は、そうでない人に比べ、人生満足感が低く、不公平感が高かった。また、働いている人が少なく、1年前より暮らし向きが悪化した人が多く、 世帯収入、主観的な社会経済的地位が低く、主観的健康が悪かった。
経済的な指標によって語られる「貧困対策」や「格差対策」も重要ですが、「精神的健康度」や「不公平感」に着目をすると、ストレス緩和や不公平感覚の是正という課題が見えてきます。
社会的な精神的健康の確保のためには、ストレス解消手段の提供にとどまらない議論が必要です。ケアや福祉の充実、偏見や差別の是正、個人負担の軽減、心理教育の充実、不公正な法律の是正など、幅広い視点が求められるでしょう。
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今回の記事で紹介した調査期間・調査対象は、次のとおりです。
【調査実施日】
第6回:2022年8月3日(水)~2022年8月19日(金)
第7回:2022年11月15日(火)~2022年11月22日(火)
【調査対象者】
ネオマーケティングのアンケートサイト「アイリサーチ」のモニター登録者のうち、18~79歳の男女。全国の地域・性別・年齢の人口分布(総務省統計局「人口推計」2018年10月1日現在人口)に合わせて、 調査対象者の割付を行った。調査に際し、サティスファイス検出項目(適当に回答した者を弾く項目)を2問設け、いずれの質問にも指示通り回答した人のみを有効回答とした。有効回答数は1,000名。
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