「反ワクチン」よりも強かった「日本人ファースト」意識:〜参政党への投票行動を分析する③

チキラボでは、「2025年東京都議選をめぐる有権者の政治意識調査」を実施。
なかでも躍進が注目された参政党に投票した有権者に注目し、その傾向を分析しました。
どんな主張に共感し、どの政党に好感を抱いているのか?
「反ワクチン」や「日本人ファースト」への支持傾向をもとに、“スピリチュアル”“オーガニック”“反ワク”といったイメージは実像と一致するのかに迫ります。
荻上チキ(社会調査支援機構チキラボ) 2025.07.16
誰でも

参政党支持者=「世田谷自然派左翼」説は本当か

2025年6月に行われた東京都議会選挙における参政党の議席獲得に対し、様々な説が語られました。そのうちの一つが、「世田谷自然派左翼」が、参政党に議席を与えたとするような言説です。

参政党は元々、「スピリチュアル」「オーガニック」「反ワクチン」などの主張で注目されていました。一方で「世田谷自然派左翼」は、「高収入でリベラルな思想の持ち主」や「環境やオーガニックに興味を持つ都市部住民」などについて批判的に言及する、定義が曖昧なスラングです。

「その両者はおそらく相性が良いのだろう」とするイメージから、「世田谷自然派左翼」との俗語を用い、都議選の結果を推測する動きがありました。

前提として、何かの現象や行動に特定の地域名をつけることには、その地域への蔑称的な意味を加えることになります。そのため、分析ワードとして用いる場合にも、慎重な姿勢が求められます。その上でまず、この言説を検証してみます。

今回、参政党が候補者を立てた選挙区の1つが世田谷区であり、世田谷区の候補は当選も果たしました。他にも、大田区、練馬区、八王子市で参政党の候補者が出馬しました。今回の調査では、この都内4地域の有権者の分析を行っています。

「世田谷」選挙区は、東京都全体と比べて、有権者の「保守」「リベラル」自認度に大きな差はみられませんでした。このことから、「世田谷」の有権者が特に「左派的」であるとは言えません。

また、参政党が出馬していた世田谷以外の各選挙区も同様で、特に左派的な傾向が目立つわけではありませんでした。

「反ワクチン」は今も参政党支持者の支持理由なのか?

加えて、「反ワクチン」への共感度合いをみてみます。グラフ上では、世田谷区と都民全体とではわずかながら傾向の違いがみてとれそうですが、「ワクチン接種義務化反対」度合いについて、統計的に有意な差は見出せませんでした。なお、こちらの結果は、スクリーニング調査を通過して本調査に進んだ方に行った本調査②のデータから得ています。

参政党投票者は、参政党の「医療観」に共感を示している人も一定層、存在します。また、参政党のことを、「リベラル」だと捉えている層もいました。

ただし、統計調査で分かるのは、あくまで傾向の話です。全体として右派的な傾向があることと、「左派的な傾向がある人も、参政党支持者の一部にいる」ことは両立します。

参政党を支持するインフルエンサーの振る舞いに注目すること、これまでの党の発信を分析すること、フィールドワークやインタビューを行うこともまた、重要な取り組みです。その際には、目立った事例にのみ着目し、実態から一人歩きした「語り」に繋がらないよう、合わせてデータを参照にすることも重要でしょう。

「反ワク」よりも「日本人ファースト」傾向

全体から見れば、参政党に投票する「反ワクチン左派」は少数でした。今回の調査で得られたデータからは、「反ワクチン」よりも「日本人ファースト」「外国人観」への共感度が高く現れていました。

また、「参政党は東京都の有権者に「しっかり」理解されている?〜参政党への投票行動を分析する①」で述べたように、参政党投票者の政治的な立ち位置の自認は、他政党の投票者と比べると、極度に右派的な傾向がありました。中道からの距離だけで言えば、共産党投票者の「左派度合い」と、参政党支持者の「右派度合い」は、同程度だと見ることもできます。もし有権者が、共産党投票者のことを「左派」だと思うのであれば、参政党投票者は同程度には「右派」であるとなりそうです。

なお、「極右」という言葉には、様々な論争があります。この言葉が用いられる際には、たとえば①「他の既存保守政党と比べても、さらに右派的な傾向を指す」という相対的な意味づけと、②「民族主義・排外主義的ナショナリズムを伴う政治的立場」という内容的な意味づけがなされることがあります。

②についての先行研究では、「独裁の推奨」「自国中心主義」「反外国人」「反ユダヤ主義」「社会的ダーウィニズム」「ナチズムの相対化」などの要件がもちいられています。

※参考
高橋伸彰(2017年)「ドイツ極右主義―時間/空間の構造的変動と多文化社会―」『立命館言語文化研究』28巻4号、125-137頁、立命館大学国際言語文化研究所
https://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/pdf_28-4/lcs_28_4_takahashi2.pdf

「極右」に拒否感を示す神谷氏、しかし支持者の自認は主要政党の中で最も右

投票者の傾向分析および支持された政策内容からは、他の政党支持者よりも右派自認が強く、他党よりも「日本人ファースト」政策が強く共感されていることが見えてきます。一方で、参政党の神谷氏は、「排外主義」や「極右政党」という言葉を「レッテル」であるとし、その言葉が適用されることに拒否感を示しています。

実際のコミュニケーションで「極右」という言葉を用いるかどうかは別ですが、現在の支持傾向について知ることは重要となるでしょう。

都民は参政党をどう見たのか

2025年東京都議選をめぐる有権者の政治意識調査では回答者に対し、各政党の「好感度」も聞いています。東京都の有権者全体の傾向から確認しましょう。例えば6月時点で、自民党よりも国民民主党の「非常に・少し好感を持てる」層が多いこと、NHK党に好感を持つ人は少ないことなどが見られていました。参政党に「非常に好感が持てる」という、積極的支持層の割合は、他党よりも若干高くなっていました。

参政党支持層は、自民と立憲を同程度に「嫌って」いる

ではこの分布を、参政党に投票した人だけに絞って確認しましょう。参政党投票者は、参政党そのものに、極めて高い好感を抱いていました。参政党投票者の8割は、参政党に対し、「非常に好感が持てる」か「少し好感が持てる」と回答していました。

参政党投票者は、現在の自民党と立憲民主党を同程度に「嫌って」いました。また、参政党投票者の9割は、共産党・公明党に対する好感度が極めて低い傾向があります。

一方で、「日本保守党」「国民民主党」「NHK党」に対しては、他政党よりも高い好感度を示していました。「れいわ新選組」も、自民や立憲などと比べると好感度が高い傾向にあります。

「保守・右派層」という切り口で見ると、自民党・日本保守党・参政党の「保守分断」が注目されます。他方で、「好感度を持つ政党クラスター」でみると、参政党投票者は、「日本保守党」「国民民主党」「NHK党」「れいわ新選組」もまた、好意的な選択肢として捉えているとも読めます。

さて、最後に重ねての注意を。今回の調査は、あくまで「東京都議選」について、2025年6月時点で行った調査です。今回の結果が他の地域や日本全国の傾向、参院選の動向に対して、直ちに当てはまるわけではない点にご留意ください。

チキラボでは参院選での投票行動も調査しています。次回以降の記事にも、ご興味を持っていただければ幸いです。

***

本調査は、選挙後すぐに調査設計に取りかかり、こうして発信までこぎつけられました。日頃からご支援くださっているサポーターのみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。

チキラボの活動はみなさまのご寄付に支えられております。より多くの人が生きやすい社会をつくるための調査・発信を支えるマンスリーサポーターの一員に加わっていただけますと心強く思います!

月額1,000円~ 限定イベント、Facebookグループへのご招待の特典もございます。

単発でのご寄付も大変ありがたいです。ご自身で寄付金額をお選びいただけます。

無料で「チキラボ レポート」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
参院選序盤〜中盤分析:比例区・投票予定先の変化を追う
誰でも
参院選前半の動向:支持政党ごとのジェンダー政策感への賛否(修正あり)
誰でも
参政党に投票したのは、どんな人なのか 〜参政党への投票行動を分析する②...
誰でも
参政党は東京都の有権者に「しっかり」理解されている?〜参政党への投票行...
誰でも
社会的マイノリティの精神的健康状態についてーー第6・7回「社会抑うつ度...
誰でも
「惨事報道ストレス」に注意喚起をーー第5回「社会抑うつ度調査」報告
誰でも
中年女性層のメンタルヘルスが悪化ーー第4回「社会抑うつ度調査」報告
誰でも
コロナ禍と不公平感ーー第3回「社会抑うつ度調査」報告