中年女性層のメンタルヘルスが悪化ーー第4回「社会抑うつ度調査」報告

チキラボが行っている「社会抑うつ度調査」、第4回目の報告。今回の報告書のポイントは、「中年女性層(40~59歳)の精神的健康度合いが悪化」「コロナ対策、一部の自粛度が低下」「年齢差別や買い物志向についての新規調査報告」となっている。
荻上チキ(社会調査支援機構チキラボ) 2022.04.08
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Ⅰ.中年女性の「精神的健康度」が悪化

チキラボでは、日本国内で生活する人々の「人生満足度」「抑うつ度」「不安感」「孤独感」などを、定期的に観測し続けています。大まかに、「抑うつ度」は感情の落ち込んだ状態を、「不安感」は現状や将来に心配や恐れを抱いている状態を意味します。

第4回報告は、2021年11月上旬から2022年2月上旬にかけての推移を見ていきます。この時期は、デルタ株感染の沈静化と、オミクロン株の拡大期、そして北京冬季五輪開催時期に重なります。なお、ロシアによるウクライナへの侵略行為は、この調査の対象時期にはまだ入っていません。

では、11月から2月にかけて、人々の精神的健康状態はどう変化したのでしょうか。

本調査では昨年の計測当初から、若年層のほうが「抑うつ感」や「不安感」が高い系傾向がありました。一方でここしばらくは、中年女性の悪化が目立ちます。なお、年齢については、若年層(18~39歳)、中年層(40~59歳)、高齢層(60~79歳)の3群に分けています。

回答者の性別、年齢別に見ていきましょう。コロナ禍では高齢者の健康状態に対して、特に大きな注意が払われました。しかし精神的健康状態については、むしろ若年層の方がハイリスクであるという状況が、変わらず続いています。

この傾向に、「コロナ感染拡大第6波」下での大きな変化は見られません。「まん延防止等重点措置」によって、ことさらに悪化したという影響もみられないため、「緊急事態宣言」「まん防」以外の影響を検討することが必要になりそうです。

Ⅱ.人々の「自粛度」が低下

コロナ禍での活動については、いくつもの項目で変化が見られました。2022年11月から2022年2月には、それ以前に比べて、全体的に、「外食」や「遊びに行った頻度」などが上昇していたのです。

昨年から見ると、時間が経つにつれ、外出頻度が高まっています。他方で11月と2月とを比較すると、外出頻度が若干、控えられてもいました。この時期はオミクロン株の感染拡大と、まん延防止等重点措置の時期に重なります。

感染拡大のニュースがある時期、あるいは「まん防」などが出された時期には、人々は外出などの機会を減らしています。ただし去年などと比べると、「自粛度」は低下していることもわかります。

また、拡大期の自粛も、「非同居人との外出」「旅行」などは控えられても、「家飲み」などはむしろ増えるなど、項目によって変化が異なることもわかります。コロナ対策に対する社会規範が、「家族となら食事してもいい」というものから、「少人数ならよし」「自宅ならよし」「頻繁でなければよし」というものに変わっているのかもしれません。

但し、別の項目でたずねたコロナ禍のリスク対策行動ーー「出かけるときはマスクをつけた」「人との間隔をできるだけ空けた」等ーーについては、差が見られませんでした。これは、コロナの感染状況が変化しようと、個人的な感染対策は継続していること、あるいは消毒やマスクは社会慣習として既に定着していることを意味していそうです。

Ⅲ.ワクチン世代間ギャップは変わらず

続いて、ワクチンの接種動向についても見てみましょう。

ワクチン接種については、全体では約8割、高齢者の約9割が、既に2回摂取を済ませています。ただし3回目接種については、2月時点ではまだまだ非常に限定されている状態です。これは、2月時点ではまだ、接種対象者が限定されていたためです。

日経新聞がとりまとめている摂取状況データによれば、本記事を執筆している段階(4月6日)では、4割以上の人が3回目摂取をしています。特に2月後半、ワクチン3回摂取の一般予約が始まってからは、1日100万回前後のペースで摂取された時期もあります。ただ、3月上旬をピークに、摂取ペースが減少しつつあります。

ワクチン接種への前向き度についてはどうでyそうか。いずれの年代でも、半分以上の人は、今後ワクチンの接種を望むと答えています。その割合については年齢によって差があり、若年層ほどワクチン接種に消極的ではあるようです。

ただし、これまでの摂取がそうであったように、全体の摂取率が変化することによって、「消極的なワクチン忌避層」が減少する可能性もあります。

Ⅳ.女性ほど、「年齢差別」の経験率が増える

今回の調査では、新たに「年齢を理由とした差別」の経験をとっています。その結果は、図の通りになりました。

「若いことを理由とした不利な扱い」は女性、特に10-20代の女性に多い一方で、男性は年齢による差が見られませんでした。

「若くないことを理由とした不利な扱い」については、男女差はほぼ見られませんでしたが、特に50代の女性では多いという結果になっています。

このようなデータから、「アダルティズム」「エイジズム」「ルッキズム」と呼ばれるものは、性差別とも密接に結びついているということも見えてきます。

Ⅴ.買い物に対する態度は、社会階層でも変わる

さらに今回は、これまでの調査で取り続けてきた「買い物に対する志向性」のデータを、横断的に分析してみました。

その結果、買い物に対する志向性として、必要なものだけを計画的に購入する「計画志向」、新規の店や商品に挑戦する「挑戦志向」、なじみのあるブランドや有名メーカーのものを購入する「安定志向」の3因子が抽出されました。

「計画志向」が高いのは、年齢が高い人・仕事をしていない人・結婚していない人・学歴の高い人・主観的な社会経済的地位が低い人・ネット情報への信用が低い人・孤独感の高い人でした。比較的高齢でネットを信用していない人や、自分を貧しいと感じている人が、計画的に買い物をする傾向があると言えます。

「挑戦志向」が高いのは、女性・学歴の高い人・収入の高い人・社会経済的地位の高い人・ネット情報への信用が高い人・精神的状態が全般的に良い人でした。学歴や収入の高い、経済的・精神的に余裕のある女性が、ネットの口コミ等を参考に、新しい店や商品に挑戦していると言えます。

「安定志向」が高いのは、女性・仕事をしていない人・結婚していない人・収入の高い人でした。主婦の女性や収入の高い人が、気に入ったブランドや、「いつもの店」を重視した買い物をしていると言えます。

メンタルヘルス上の特徴としては、「計画志向」が高い人は孤独感が高く、「挑戦志向」が高い人は抑うつ・不安感・孤独感が低いという結果が見えてきました。「挑戦志向」は、全体的な精神的健康状態の良さと最も関連していました。また、3つの志向性全てについて、いずれの志向性であっても、それが高い人ほど人生満足度が高くなっていました。

そもそも買い物そのものへの志向性が高い状態というのは、自分の所得や消費についての自己理解が深いというだけでなく、消費全般に前向きに捉えることのできる状態を指してもいます。「眠れない」「不安がある」という状態だけでなく、「欲しいものがある/ない」というような状態も、精神的健康についてのひとつのバロメーターになりえそうです。

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