第2回「社会抑うつ度調査」報告
Ⅰ.はじめに
チキラボでは、日本国内で生活する人々の「人生満足度」「社会抑うつ度」などを、定期的に観測し続けています。第2回調査は、7月第1週に行いました。6月調査と比べて、どのような変化があったのか。早速見ていきましょう。
Ⅱ.精神的健康
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まず年齢層別に見ると、若年層のほうが高齢者よりも、抑うつ感や不安感、孤独感が強い傾向があります。先月比で見ると、若年女性(18歳-39歳)の孤独感や人生満足度がポジティブに変化をし、また高齢男性(60歳-79歳)も不安感が低下していました。一方で、若年男性(18歳-39歳)の男性では人生満足度が低下していました。
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女性は年代問わず、抑うつ感や不安感のトレンドラインが似ているのに対し、男性では年代によって差が見られます。
6月中旬から、18-64歳にもワクチン接種が開始されました。高齢者接種が一定程度、進んだことが理由でした。一方で、接種券の配布に自治体格差があり、ほとんどの若年層は予約が取りづらい状況が続いています。
では、ワクチン摂取を済ませた人と、まだ済ませられていない人とでは、不安感や孤独感に差が出るのでしょうか。同年齢間で比較しましたが、差は見られませんでした。ワクチン摂取をしても、外出などには強い制限がかかる状況が続き、交友にも労働にも負荷がかかり続けています。ワクチンを打てば不安が消えるという単純な状況ではなく、それぞれの生活ごとに抱えているストレスへの対処施策が必要となりそうです。
Ⅲ.コロナ禍の活動とリスク対策
コロナ対策についての変化はどうでしょうか。6月から7月にかけて、いくつかの項目で変化がありました。「同居していない人を含む5人以上のグループで外食した」「職場の同僚などと、職場で弁当や社食を共に食べた」「電車やバスなどの公共交通機関を利用した」などの項目で、1回以上行った人の割合が増加していたのです。
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この間、コロナ感染状況は改善していません。ワクチン接種率は若年層にも広げられましたが、調査段階では若年層の大半がワクチン摂取できていません。にもかかわらず、外出率が上昇したのはなぜか。気候の変化、オリンピックが中止にならなそうだという見通し、コロナ慣れなど、さまざまな仮説はあるでしょうが、確定はできません。
コロナ対策全般については、一ヶ月での変化はありませんでした。多くの人がマスクをつけ、手を洗い、人との距離を開けるなどの努力を続けています。他方、政府が広報を繰り返してきた「接触確認アプリ」の使用率は、依然として低いままであり、「フェイスシールド」「空間除菌」と同程度の普及しかしていません。
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アルファ株を想定した日本の「クラスター対策」では、濃厚接触者の把握によって、いわゆる「リンク切れ」を防ぐことが重要でした。アプリがあまり使われないということは、事後的な聞き取りに頼らなくてはならない状態であり、「デジタルとサイエンス」という分科会方針とのミスマッチが気になるところです。
Ⅳ.ワクチン接種状況①積極摂取した人はどう行動するか
ワクチン接種対象が広げられたことを受け、7月からはワクチン接種経験も調査しました。図を見ればわかるように、高齢者の接種経験は半数を超えている一方で、若年層の接種経験は1割にも満たない状況でした。それでも大半が、「まだ摂取していないが今後摂取したい」とは考えています。
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接種者の傾向を見ると、女性よりは男性が接種を行っており、また世帯年収が高い人ほどワクチン接種率が高くなっていました。男女差や年収については、職域接種の影響もありそうです。年収が高い、大規模な企業や大学などに勤めている場合、職場での接種も可能になるため、「自治体接種」「大規模接種センター」「職域接種」などの選択肢にたどり着きやすくなるでしょう。
ワクチン接種は、人々の行動に影響を与えるのでしょうか。7月頭時点では高齢者以外の接種はほとんど進んでいない一方で、高齢者の接種者は7割程度。そこで、高齢者(65歳以上)の回答のみを分析したところ、「2回接種済」の人は、「一回接種」「未接種」の人よりも、外出率が高まっていました。接種による安心効果もあるでしょうし、もともと積極的に接種するような行動パターンの人であったこと、そのいずれも考えられそうです。
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一方で、2回摂取し、外出を増やしがちであるからといって、マスクや手洗いなどの感染症対策全般を緩めているわけではありませんでした。
未接種で、「今後も摂取したくない」という人は、18-39歳で約30%、40-59歳で約15%、60-79歳で約10%存在しています。ただしこの中には、強い信念や、打てない事情がある「積極的忌避層」もいれば、「消極的忌避層」「様子見層」もいるでしょう。接種コストが下がり、いつでも打てるという状況になってなお、ワクチンを忌避する人がどの程度いるのかはまだわかりません。
Ⅳ.ワクチン接種状況②誰がワクチン接種に消極的なのか
ワクチンを「今後も摂取したくない」と答える人は、どういう人でしょうか。分析では、以下のような特徴が見いだせました。
• 年齢が若いほどワクチンを接種したくない人が多かった。
• 出身学校が大学・大学院の人、主観的社会経済的地位が高い人ほど、ワクチンを接種したくない人が少なかった。
• 性格特性でみると、協調性の高い人ほどワクチンを接種したくない人が少なく、勤勉性・開放性(新しいことが好きで発想力がある性格特性)が高い人ほど多かった。
さらに分析からは、若年層の場合は個人の性格特性が、中年層は社会経済的地位の低さが、ワクチンへの消極さに、とりわけ関与していることがわかりました。
協調性が高い人は、「周囲に感染させることを避ける」「周囲が摂取することを勧めている」「集団免疫を増す」などに共感しやすいため、接種をするというストーリーは見えそうです。性格特性によって、集団接種戦略との相性が変わることも言えるでしょう。
では、開放性の高さは、摂取率にどう影響しているでしょうか。一部メディア等で拡散するワクチン懐疑論やコロナ軽視論の新奇性に惹かれているのかもしれませんし(一般に「開放性の高さ」は、芸術的感受性が強く、一般規範とは異なる信念へのこだわりと関わっています)、封建的・専制的に見える政権に対する信頼感がないがゆえかもしれません(一般に「開放性の高さ」は、リベラル政党への支持度合いと関わっています)。あるいは、科学者や行政の要求が、権威的で抑圧的なものとして届いてしまっている可能性もあります。
他方で勤勉性の高さが、なぜワクチン消極さと重なるのでしょうか。これには、社会的な学習環境、メディア環境がどのようになっているのかという分析が必要そうです。例えば、ワクチン重要性を訴える主流メディアなどからの情報取得ではなく、ワクチン懐疑性を強調するオルタナティブメディアなどへのアクセスを高めているのかもしれません。
ひとまず現段階で摂取率が低いのは、そもそもワクチン摂取そのもののハードルがまだ高い状況にあるためです。そこでまずは、摂取を望んでいる8割以上の市民に、迅速かつ公正にワクチンを届けることが必要でしょう。行き届いた段階になれば、「様子見層」にも変化が見られる可能性がります。
その上で、未接種を続ける人に対しては、「より簡単に打てる体制づくり」の整備のほか、性格特性や労働形態などを分析したうえで、「より届くコミュニケーション手法」を模索する必要があるでしょう。性格特性を分析するのは、問題の所在を、「内面がけしからん人が感染の原因である」と位置付けるためでは決してなく、そのように解釈されてはなりません。コミュニケーション手段のデザイン時に、情報の受け手の幅広さを想定しきれていないのではないかという、気づきを得るためにこそ重要となります。
開放性の高い層に訴えるという点では、例えば「ユニークなコンテンツ」「サンクション(報奨)の提供」「信頼しているインフルエンサーからの訴え」などとは親和性が見出せるかもしれません。勤勉性の高い層には、「誤情報がどのように拡散されがちか」「誰がどのような経緯でフェイクニュースを作ったのか」といった、知的好奇心を刺激するコミュニケーションが有効かもしれません。いずれにしても、コミュニケーションを取りたい相手の背景や特性を理解した上での働きかけが重要となります。
気になる点もあります。ワクチン接種を見送る人については、他のコロナ対策への積極度が低かった点です。統計的に有意だったものをいくつか羅列すると、以下の図のようになります。
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ワクチンに消極的な人は、そもそもマスクや消毒などのコロナ対策全般についても消極的な傾向があり、一方で外出に対しては積極的な傾向があります。ワクチンについては原則的に、個人の健康影響などの観点から、打つかどうかは個人の自由ということになります。ただ一方で、「ワクチンを打たない上、マスクや消毒もせずに、積極的に出かける人」については、感染拡大にもつながる公衆衛生の問題でもあります。
この点、1年以上かけても、マスク装着などの呼びかけが届きにくかった層に対して、新たにワクチン接種というメッセージをどのように届けるのか。次のフェーズの難題になりそうです。
もちろんこれは、相対的な傾向の話です。ワクチン接種に消極的な人であっても、大半の人はマスクや消毒をし、外出を控えています。つまり、ワクチン消極層も一様ではありません。まずはワクチンを打ちたい人に速やかに届ける。そのうえで、消極層のさらに細かな分類を行った上で、コミュニケーション回路を検討する必要があるでしょう。
Ⅴ.まとめ
コロナ禍では多くの人が、経済的にも打撃を受け、マスク装着などの負荷を受け続けています。その一方で、趣味をはじめとするコーピング手段(ストレスに対する意図的な対処手段)を失いました。ストレッサーが増える一方で、ストレス発散手段は減りがちとなります。こうした状況だからこそ、メンタルヘルスのモニタリングが重要となります。
ただし、前回調査でも明らかになったように、家族と同居している正社員の多くは、家族との時間が増えたことにより人生満足度などが向上しがちである一方、非正規で一人暮らしの人では、不安感が高まりがちとなります。こうした心理的負荷の違いにも着目した上で、具体的サポートをめぐる政策議論が不可欠となるでしょう。
外飲みなどを批判して、「家にいてください」とだけ呼びかける。あるいはロックダウンに法的根拠を与え、一定の強制権限を行政に持たせる。それぞれ重要な論点ではあるものの、こうした「鞭」一辺倒では、メンタルヘルスの悪化が加速する懸念があります。個人に届き、協力と健康を促す、いわば「ヘルシーな飴」となる政策が求められているように思います。
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